ニュースの概要
インドネシアの海洋水産相が、海藻を食料安全保障の解決策として強化する方針を示した。海藻は田畑を新たに広げなくても育てられる「ブルーフード(=海から得る食料)」だという位置づけである。2025年の国内海藻生産量は1,160万トンで、前年より18.27%増え、国内の水産業生産の42%を占めた。生産者は20万人を超え、100万人以上の暮らしを支えている。さらに海藻は二酸化炭素を吸収し、水質も改善する。政府は今後、品質の向上や加工・高付加価値化を進める考えだ。
引用元: インドネシア、海藻を食料安全保障と環境対策の柱に位置付け(ANTARA News)
分析・見解
農地を増やさず食料を増やせる点が、海藻の最大の強みである
陸の農業を拡大するには、森林を切り開いたり水を引いたりする必要がある。それが環境への負担となり、土地をめぐる争いも生む。海藻は種と海面があれば育つ。肥料も真水も要らない。インドネシアは島が1万以上ある国だ。広い海面を持つ強みを、そのまま食料の増産に変えられる。
生産量が1年で18%伸びたことも見逃せない。これは単なる偶然ではなく、養殖が量産の段階に入ったことを示している。国内の水産業生産の4割以上を海藻が占めるなら、海藻は水産業の脇役ではなく主役である。
食料と気候対策を一つの事業で両立させる発想
今回の方針で特に注目したいのは、海藻を食料と環境の両面で評価している点である。海藻は育つ間に海水中の二酸化炭素を取り込み、窒素やリンといった過剰な栄養分も吸収する。つまり、同じ養殖場で「食べ物を作る」「炭素を減らす」「水をきれいにする」という三つの働きが同時に生まれる。
従来、食料政策と気候政策は別々の省庁が別々の予算で進めることが多かった。インドネシアはこれを一本化し、予算の説明を通しやすくしている。同じ手法は、他の新興国にも広がるだろう。
炭素吸収の数字は慎重に見る必要がある
ただし、海藻による炭素吸収を、そのまま排出削減として数えられるかは別の問題である。海藻は収穫されて食品や飼料になれば、炭素は比較的早く再び大気へ戻る。長く海底に閉じ込められる部分がどれだけあるかを測らなければ、信頼できる削減量にはならない。
日本の取り組みでは、Jブルークレジットのように、藻場が吸収した量を第三者が確認して認証する仕組みがある。インドネシアが国際市場で評価されるには、同じように測定と検証の仕組みが必要になる。量の拡大だけでなく、数字の裏づけを整えられるかが次の分かれ目である。
生産量の次は、加工と品質の競争になる
政府が加工と高付加価値化を挙げたのは、量の競争に限界があるからだ。海藻の多くは乾燥した原料のまま輸出されると、利益は加工国に流れてしまう。寒天、カラギナン、食品素材、化粧品原料まで国内で仕上げられれば、同じ1トンでも価値は大きく変わる。今後の競争は、生産量から品質管理と加工技術へ移っていく。
ビジネスへの影響
海藻関連の調達先として、東南アジアが現実的な選択肢になる
食品、化粧品、飼料、バイオ素材を扱う企業にとって、インドネシアの増産は調達の選択肢が広がる話である。ただし生産が急増する時期は、品質のばらつきや残留物の管理が課題になりやすい。取引を検討するなら、産地や養殖方法を追跡できるか、検査体制が整っているかを契約前に確認したい。価格だけで選ぶと、あとで品質問題に悩まされる。
日本の沿岸事業者は、測定の仕組みで差をつけられる
日本の漁協や自治体、藻場再生に取り組む企業にとっては、競争というより参考になる動きである。日本は生産量では太刀打ちしにくい。一方で、藻場の吸収量を測り、認証を受け、クレジットとして売る仕組みは先行している。この測定の信頼性こそ、日本の強みである。
具体的には、養殖場や藻場の面積、生育量、収穫後の用途を記録し、第三者が確認できる形で残しておくとよい。今から記録を整えておけば、クレジット化や企業との連携の際に、すぐ使える資産になる。
提携や投資を考える企業が、今のうちに確認すべきこと
海外の海藻事業と組む場合は、炭素の数字をそのまま信じない姿勢が大切である。吸収量の算定方法、収穫後の扱い、地域の漁業者との関係を、事前に確認する。環境をうたう事業ほど、地元の暮らしを損なうと評判を落としやすい。
逆に、地域の生産者が収入を得られる仕組みなら、長く続く事業になりやすい。20万人超の生産者を抱えるインドネシアの例は、環境と雇用を両立させる設計がいかに重要かを教えてくれる。