本ページでは、ブルーカーボン創出の最前線である藻場再生プロジェクトの現況を報告します。磯焼けの実態、再生の主な手法、プロジェクトの標準的な進め方、全国の代表事例、そしてJブルークレジットによる資金調達までを整理します。

磯焼けの現状と原因

藻場再生を語る前提として、まず「磯焼け」の理解が欠かせません。磯焼けとは、沿岸の岩礁域から昆布やアラメ・カジメ、ホンダワラ類などの海藻が広範囲に消失し、サンゴモ類に覆われた白っぽい海底が長期間続く現象です。全国の藻場は1990年代以降減少を続けており、水産庁の調査では磯焼けが全国の沿岸で確認されています。

主な原因は3つ挙げられます。第一に海水温の上昇です。高水温は海藻の生育を直接阻害するだけでなく、ウニや植食性魚類(アイゴ・イスズミなど)の活動期間を延ばし、食害圧を高めます。第二にウニの過剰な食害です。天敵の減少や漁獲の減少で増えすぎたウニが、再生しようとする幼芽まで食べ尽くし、藻場が回復できない「ウニ焼け」状態を固定化します。第三に栄養塩や土砂流入など沿岸環境の変化です。これらが複合するため、単一の対策では回復が難しいのが磯焼けの厄介な点です。

藻場再生の主な手法

全国のプロジェクトで実践されている再生手法は、大きく4つに整理できます。実際には海域の条件に応じて複数を組み合わせるのが一般的です。

ウニ除去・食害対策

ダイバーや漁業者が過剰なウニを除去し、フェンスや網で植食動物の侵入を防ぎます。磯焼け海域では最優先の対策で、除去したウニを畜養して商品化する動きも出ています。

母藻設置・種苗移植

胞子を持つ成熟した海藻(母藻)をスポアバッグで設置したり、陸上で育てた種苗を移植したりして、海藻の再定着を促します。アマモ場では種まきや苗の移植が中心です。

基質造成・構造物設置

海藻が着生しやすい藻礁ブロックや自然石を海底に設置し、生育の足場を作ります。港湾・護岸工事と一体で実施されることが多く、建設会社の技術が活きる領域です。

養殖藻場・ハイブリッド型

養殖技術を使って海面にロープ式の藻場を造成する新しいアプローチです。天然藻場の回復を待たずに吸収量を作り出せる点が注目されています。

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プロジェクトの進め方

藻場再生プロジェクトをクレジット化まで見据えて進める場合、標準的な工程は次のようになります。着手から初回のクレジット認証まで、早くても2〜3年を要するのが一般的です。

  • STEP 1(0〜6か月): 事前調査・合意形成

    対象海域の藻場分布・磯焼け状況を調査し、漁協・自治体・地域住民との合意を形成します。漁業権が設定された海域では漁協との連携が必須です。

  • STEP 2(6〜12か月): 計画策定・資金確保

    再生手法と目標藻場面積を定め、国・自治体の補助事業、企業協賛、クレジット販売見込みを組み合わせた資金計画を立てます。

  • STEP 3(1〜2年目): 再生活動の実施

    ウニ除去・母藻設置・基質造成などを実施し、活動記録と写真・位置情報を体系的に保存します。この記録が後の認証審査の証拠になります。

  • STEP 4(2〜3年目): モニタリングと算定

    藻場面積・被度の変化を継続測定し、CO2吸収量を算定します。ドローンや衛星画像の活用でコストを抑える工夫が広がっています。

  • STEP 5(3年目以降): 認証申請・クレジット販売

    JBEへ認証申請し、発行されたJブルークレジットを販売します。収益は翌年度以降の保全活動に再投資し、持続的なサイクルを回します。

全国の代表的プロジェクト

国内では既に多くの先行事例が実績を上げています。ここでは性格の異なる代表例を紹介します。

横浜市・横浜ブルーカーボン事業は、Jブルークレジットの原型となった草分け的存在です。市民・企業を巻き込んだアマモ場再生とオフセットの仕組みを早くから構築し、制度設計に大きな影響を与えました。

明石市江井島沖(東洋建設ほか)は、建設会社と漁協が共同でアマモ場を造成し、2026年までに3年連続でJブルークレジット認証を取得した継続性のモデルです。調査・評価技術を年々拡充し、認証量を積み増しています。

関西国際空港島(関西エアポート)は、空港護岸という人工インフラを活かした事例です。藻場面積は過去最大の66haに達し、小型海藻まで含めた精緻な評価で前回を上回る認証を得ています。

横須賀市「横須賀みんなの海プロジェクト」は、自治体主導で磯焼け対策と市民参加を組み合わせ、創出したクレジットの購入者を公募する地域循環型の取り組みです。このほか、北海道の昆布藻場、九州のガラモ場再生など、全国の海域特性に応じた多様なプロジェクトが認証を受けています。

資金調達とクレジット化

藻場再生の初期費用は、調査・資材・潜水作業などで小規模でも年間数百万円、大規模事業では数千万円規模に上ります。現在のプロジェクトの多くは、(1)水産庁・国交省・自治体の補助事業、(2)企業の協賛・企業版ふるさと納税、(3)Jブルークレジットの販売収入、の3層で資金を組み立てています。

クレジット販売収入だけで事業費全体を賄える例はまだ少数ですが、価格水準の高さと需要の強さから、収支に占めるクレジットの比率は年々高まっています。企業側から見れば、資金提供の段階から関与することで、クレジットの優先的な取得と地域連携ストーリーの両方を得られるため、「プロジェクト共創型」の参画が増加しています。

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成功のポイントと課題

先行事例から見えてくる成功要因は3つあります。第一に、漁協・漁業者との強固な信頼関係です。海の作業は地元の協力なしには成立せず、水産資源回復というメリットの共有が継続の原動力になります。第二に、モニタリングの仕組み化です。認証に耐えるデータを低コストで取り続ける体制がなければ、クレジット化は頓挫します。第三に、複数年を見据えた資金設計です。藻場は一朝一夕には戻らないため、単年度予算の事業では成果が出る前に息切れしてしまいます。

課題としては、高水温年に再生した藻場が再び衰退するリスク、ウニ除去の人手不足、算定方法論が発展途上の海域があることなどが挙げられます。それでも、脱炭素・生物多様性・水産振興を同時に満たす藻場再生は、沿岸地域における最も有望な環境ビジネスの一つとして、参画プレーヤーの裾野を広げ続けています。漁業サイドから見た事業構造は漁業との共生モデルのページをご覧ください。

現場から見た実践ノウハウ

藻場再生プロジェクトの成否は、計画書の出来栄え以上に現場運営の質に左右されます。先行プロジェクトの経験から蓄積されてきた実践的なノウハウを紹介します。

海域選定が成果の8割を決めると言われます。かつて藻場が存在した実績のある海域、ウニ密度を管理しやすい地形、陸からのアクセスが良く作業コストを抑えられる場所を選ぶことが、限られた予算で成果を出す近道です。逆に、外海に面して食害圧の高い海域や、河川からの土砂流入が続く海域では、多額の投資をしても藻場が定着しないケースが報告されています。事前の潜水調査と地元漁業者へのヒアリングに時間をかける価値は十分にあります。

ウニ密度の管理は「除去して終わり」ではありません。周辺海域からウニは再侵入するため、初回の集中除去の後、年数回の維持除去を続ける体制が必要です。先行地域では、1平方メートルあたりのウニ個体数に管理目標を設定し、モニタリングと除去をセットで回す運用が定着しています。除去したウニを再生畜養で商品化できれば、この維持活動自体が収益活動に転換します。

記録の標準化も重要です。作業日・位置・作業内容・写真を定型フォーマットで蓄積しておくと、クレジット申請時の証憑整理が格段に楽になります。スマートフォンの位置情報付き写真と簡易なクラウド共有だけでも、後々の審査対応コストを大きく削減できます。

最後に地域への発信です。海の中の変化は住民の目に見えないため、水中写真や海藻の展示、子ども向けの観察会などで成果を可視化する広報が、活動への理解と参加者の確保につながります。企業パートナーにとっても、こうした発信素材はサステナビリティ報告の具体的なコンテンツとして価値があります。

よくある質問(藻場再生編)

Q. 藻場はどのくらいの期間で回復しますか?

海域条件と手法によって幅がありますが、ウニ除去や母藻設置を行った海域では、条件が整えば1〜3年程度で海藻の再定着が見え始めます。ただし安定した藻場として維持されるまでにはさらに数年の継続的な管理が必要で、「作って終わり」ではなく「維持し続ける」活動であることが再生プロジェクトの特徴です。

Q. 企業はどの段階から関われますか?

資金拠出、技術提供、クレジット購入、社員参加型の保全活動など、関わり方は段階を問いません。プロジェクトの立ち上げから共同で組成する共創型の参画は、クレジットの優先取得や独自の地域連携ストーリーを得やすい一方で、関与の負担も大きくなります。まず既存プロジェクトへの参加から始める企業が多数です。

Q. 磯焼けが一度起きた海域でも再生できますか?

可能ですが、原因の見極めが前提になります。ウニ食害が主因なら除去と侵入防止、栄養塩不足なら供給源の検討というように、原因に応じた処方が必要です。かつて藻場があった実績のある海域は回復可能性が高く、海域選定が成果を大きく左右します。

Q. 再生した藻場が再び衰退するリスクはありますか?

あります。高水温年や台風、ウニの再侵入で藻場が後退することは珍しくありません。だからこそ継続的なモニタリングと維持除去の体制が重要で、クレジット制度でも保全管理体制が審査の対象になっています。長期の視点で運営できる体制づくりが成功の鍵です。