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カキ養殖で炭素を固定する中国の海洋牧場と日本への示唆

カキ養殖で炭素を固定する中国の海洋牧場と日本への示唆

ニュースの概要

中国メディアの報道によると、広東省汕尾市で、カキ養殖と炭素吸収を組み合わせる事業が進んでいます。魚、カキ、海藻を一つの海域で育てる約350ヘクタールの海洋牧場を整備し、そのうち約300ヘクタールをカキの立体養殖帯とします。年間1万トンの増産も見込まれています。海藻は光合成で二酸化炭素を取り込み、貝類は水中の粒子をこし取って食べながら海の炭素循環に関わります。養殖で食料を得ながら、同時に気候対策にもつなげる狙いです。ただし、貝殻や海藻の炭素がどこまで長く海に残るのかは、まだ評価の途上にあります。

引用元: カキ養殖で炭素を吸収・固定する「ブルーカーボン」事業が進展(21jingji)

分析・見解

魚・カキ・海藻を重ねる海洋牧場の設計思想

今回の事業の特徴は、炭素を吸う海藻だけに頼らない点にある。魚の餌の残りや排せつ物は水を富栄養化させる。その栄養分を海藻が吸い、さらにカキが水中の粒子をこし取る。つまり三者が互いの副作用を打ち消し合う設計である。

この考え方は、陸上でいう複合農業に近い。単一の魚種を高密度で育てる従来型より、海の負担を減らしながら収量を保てる。300ヘクタールという規模は、研究用の実験区画ではなく、事業として回す大きさだ。

貝殻の炭素は本当に固定されるのか

ここに最大の論点がある。カキは殻をつくるとき、海水中の炭酸水素イオンと、カルシウムを使う。この反応では二酸化炭素が一部放出される。そのため、貝類の養殖が差し引きで炭素を吸う側になるのかは、研究者の間でも意見が割れている。

一方で、貝のろ過摂食によって、粒子が海底へ沈みやすくなる効果は確かにある。海藻も、ちぎれた断片が深い海に沈めば、長く閉じ込められる可能性がある。ただし、収穫して食べられる分や、浅い海で分解される分は、すぐ大気に戻る。固定される量は、収穫量や海流の条件で大きく変わる。

食料増産と炭素の価値が同じ土台に乗る意味

私が注目するのは、年間1万トンの増産という数字である。炭素の取引収入だけで海洋事業を支えるのは難しい。海藻や貝は炭素の価値が小さくても、食料として売れる。収益の主役が食料で、炭素は上乗せという順番なら、事業は炭素価格の変動に振り回されにくい。

日本でも、昆布やワカメの養殖を使った取り組みが、Jブルークレジットの認証対象になっている。ただし、制度が評価するのは主に海藻の吸収量だ。貝類は評価方法が固まっておらず、中国の事例が先行している形になる。

数字の裏づけが、事業の信頼を左右する

増産量は帳簿で数えられる。炭素の固定量は、直接は測れない。海藻の成長量から吸収量を推定し、沈降や分解の割合を差し引き、さらに貝殻の反応で出る分も考慮する必要がある。計算の前提が一つ違えば、結果が数倍変わることもある。

今後は、測定方法の標準化が競争の中心になる。中国が大規模な実績を積み、独自の算定基準を先に整えれば、アジアの海域では、その基準が事実上の物差しになる可能性もある。日本は制度の信頼性で勝負するのか、実績の規模で追うのか、早めの判断が求められる。

ビジネスへの影響

水産事業者は食料と炭素の二本立てで試算する

養殖業者にとっての現実的な第一歩は、炭素収入を主軸にしないことだ。まず食料としての売上を軸に置き、炭素のクレジットは上乗せ分として試算する。この順番なら、炭素価格が下がっても事業は崩れない。

既存の養殖場でカキと海藻を組み合わせる場合、追加の設備は小さくて済む。まず小規模区画で、水質と収量の変化を一年間記録するとよい。この記録が、後の認証申請でそのまま証拠になる。

異業種企業は貝類の評価が固まるまで様子を見る

カーボンオフセットを目的に参画する企業は、買う対象を見極める必要がある。海藻は日本の制度で評価が進んでいるが、貝類はまだ不確実性が大きい。貝類に先に飛びつくと、後で評価が下がるリスクがある。

一方で、地域貢献や食料供給という文脈なら、今から関わる価値はある。炭素の数字だけを売りにせず、漁協との協力や地元雇用といった目に見える成果も合わせて説明すれば、投資家や取引先にも伝わりやすい。

測定と記録の体制づくりが先行者の差になる

実務で最も重要なのは、MRV(=測定、報告、検証)の仕組みを早く整えることである。養殖の種苗数、収穫量、水温、塩分、水質を毎月記録し、第三者が確認できる形で残す。

この手間は小さくないが、制度が整った時に、記録がある事業者だけが申請に進める。中国の大規模事例は、日本の漁業者にとって脅威ではなく、基準づくりの参考材料として使うのが得策である。

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