ニュースの概要
中国では、海の生き物が吸い込む炭素を、国全体の排出削減制度の中で扱う動きが具体化した。2026年3月、天然資源部の第三海洋研究所と福建省霞浦県の政府が共同で進めるマングローブ再生事業が正式に登録された。海洋分野の事業が中国認証排出削減量(CCER)の対象になるのは初めてである。これまでブルーカーボンは、沿岸の一部地域や民間の自主的な取引にとどまることが多かった。今回は、マングローブや海草の藻場が蓄える炭素を、統一ルールの下で売り買いできる土台に乗せた点に意味がある。海の吸収源を国家の制度に取り込む試みとして、各国の関係者が注視する出来事になった。
引用元: 中国、海洋分野初のCCER登録でブルーカーボンを全国制度へ組み込む(China Daily)
分析・見解
地域の試みから国の制度へ、位置づけが変わった
これまでのブルーカーボンは、いわば地域ごとの実験だった。自治体や研究機関が独自に算定し、限られた買い手と取引する形である。CCERは国が運営する共通の市場であり、登録された事業は同じ物差しで評価される。つまり今回の登録は、取引の場所が地元の市場から全国市場へ広がったことを意味する。
買い手にとっての変化も大きい。算定方法が国の方法論(=計算の公式ルール)に沿っていれば、購入側は品質を一件ずつ疑わずに済む。取引にかかる手間が減れば、需要は増えやすい。
霞浦という選定地が持つ意味
事業地の福建省霞浦県は、中国沿岸でも養殖業が盛んな地域として知られる。ここで国の研究機関と県政府が組んだ点は見逃せない。研究機関が測定の裏づけを担い、行政が土地や海域の権利を整理する。ブルーカーボンで最も詰まりやすいのは、技術よりも海域の使い方の調整だからである。
日本でも事情は似ている。藻場の再生には漁業者の合意が欠かせず、本サイトで扱ってきた漁業との共存の議論と重なる。国の研究機関が事業の中核に入ることで、測定への信頼と権利調整の両方を一度に進められる設計になっている。
日本のJブルークレジットとの違い
日本のJブルークレジットは、民間主体の認証組織が運営し、藻場や海藻養殖などを対象に発行してきた。一方、中国のCCERは国の排出削減制度そのものにブルーカーボンを組み込む。前者は現場からの積み上げ、後者は制度の上からの取り込みという性格の違いがある。
積み上げ型は柔軟で、小さな事業から始めやすい。取り込み型は規模が出やすく、他の削減分野と同じ市場で価格が付く。どちらが優れているかではなく、日本は柔軟さを保ちつつ、市場の厚みをどう作るかが問われる。
残る課題は、炭素量の測定と永続性の担保
マングローブは炭素の多くを根元の泥の中に蓄える。この泥の炭素は測りにくく、台風や海面上昇で失われる恐れもある。登録後の監視が甘ければ、クレジットの信用はすぐ揺らぐ。
そのため、衛星観測や現地のサンプル調査を組み合わせた測定・報告・検証(MRV)の精度が、今後の評価を左右する。最初の登録事業の運用実績は、後に続く案件の価格や信用度の基準になる。中国がここで質を示せれば、国際的な買い手も関心を向けるだろう。
ビジネスへの影響
日本企業は価格と信用の比較軸が増える
中国の制度は国内向けの市場であり、日本企業がすぐ購入できるわけではない。ただし、海のクレジットに国が値段を付けた事実は、世界の価格形成に影響する。アジアで同種の制度が増えれば、日本のJブルークレジットとの比較が避けられなくなる。
企業のサステナビリティ担当者は、購入候補を選ぶ際に、算定方法の公開度、第三者検証の有無、権利関係の明確さを確認しておくとよい。価格の安さだけで選ぶと、後から信用を問われる。
沿岸の事業者は、参加の準備を今から始められる
漁協、養殖業者、沿岸の自治体にとっては、藻場やマングローブの記録を残す作業が最初の一歩になる。面積、年ごとの変化、管理の履歴があれば、将来どの制度に参加する場合でも使える。
特に、漁業との共存を示す資料は強みになる。環境と生業を両立させる設計は、買い手が最も評価する点だからである。
中国の動きから学べるのは、制度設計の速さである
今回、研究機関と行政の共同開発で登録まで進めた手順は、日本の自治体にも参考になる。測定を担う専門機関を早い段階で巻き込み、権利調整を同時に進める。この二本立てが、案件化の時間を短くする。
意思決定者は、自社の脱炭素計画の中でブルーカーボンの位置づけを見直す時期に来ている。まず小口で購入し、品質の見極めを学ぶ。その経験が、将来の本格調達の判断材料になる。